材料計画部会
寺内 文雄
千葉大学大学院工学研究科 准教授
1.材料計画とは
工学分野における材料研究は,材料物性の探求や向上,改善等を目的として,様々な角度から検討が行われている。そして、対象とする材料がどのような目的や用途に使用されるかによって、建築材料・電気材料・電子材料・機械材料とった分類,あるいは,材質に焦点を当てた,プラスチックス材料・金属材料・セラミックス材料・繊維材料等々といった分類が体系化され整備されている。近年においては,新機能創成を目的としたインテリジェントマテリアルやスマートマテリアルの開発も積極的に行われている。
しかしながら,デザインの世界において材料を検討する場合には,前述した[モノ]を構成する材料という視点に加えて、それを使用する[ヒト]や[環境]の視点に立脚して問題解決に当たっていく姿勢が必要不可欠となる。なぜなら,デザインという行為は,形状創造行為をその基盤におき,[モノ?ヒト?環境]系に介在する諸問題を[ヒト]の視点に立脚して総合的に把握し,人間生活や生活文化を形成・継承し,創新していくことが要求されるからである。
換言すれば,デザイン分野における材料問題は,材料科学(materials science)をその基盤すえ,新たなる枠組み?材料計画(materials planning)?のなかで検討していく必要がある。
この材料計画という枠組みは, 1978年に出版されたデザイン小辞典(福井晃一編集:ダヴィッド社)の中で初めて紹介された。デザインの領域においては、[モノ]の構成要素である材料それ自体を、単なる物質・素材という次元のみで取り扱っていては自ずと限界が生じてくる。[モノ]という次元と同時に、それを取り扱う[ヒト]やそれが使用される[環境]という次元から[モノ]を捉えないと、問題解決の糸口を見いだすことができない。この意味で,材料計画は感性工学と切っても切れない関係にあるということができる。
2.材料計画における感性研究
材料物性は,ハード的性格を有した固有特性と,ソフト的性格を有した属性とによって構成されている。前者の固有特性は,その内容や特質を解析・評価する尺度がすでに用意されており,定量的な評価が可能である。しかしながら,後者の属性は[ヒト]の視点に立脚して材料を検討しなければならない関係上,その内容は定性的で非計量的なデータにならざるを得ない。
したがって,材料計画における感性研究においては,まず第一に定性的様相を呈する属性の内容を何らかの手段を用いて定量化し,つづいて,固有特性との間に存在する対応関係を定量的に把握していくことが必要となる。これまでに行ってきている研究内容は,主として人間の感覚特性に着目して,統計的手法により両者の関係を把握し,材料選択や材料開発のための指針を提示したものである。具体的研究事例を以下に示す。
(1)視覚・触覚:視覚イメージを反映したテクスチャー生成システムの構築,表面性状が触温度感覚に及ぼす影響,天然皮革と代替皮革材料の風合いの皮革,漆椀の感覚特性と形状特性との関係,
(2)嗅覚:居住環境を構成する有香物質のニオイ評価,木目模様の視覚特性と嗜好の関係,精油のニオイ評価,
(3)聴覚:音色イメージを考慮した信号音の操作特性,エレクトリックギター用材料の音色に対する物理特性と感覚特性との対応,用途適合性を考慮した信号音のデザイン,音響材料の振動特性と放射音イメージ,自動車用ドア閉鎖時に発生する機械音の音色評価,
(4)振動感覚:ソフトバイクシートの乗り心地と物性値との関係,乗り心地の良いソフトバイクシートの形状設計,自動車走行における乗り心地評価構造の解明,人体の振動特性を考慮した自動車乗り心地評価システムの開発,クッション材における弾性構造の検討,
(5)総合感覚:材料イメージの構造的分析,材料分類における要因の検討,材料選定のためのガイドラインの検討,工業材料選定のためのエキスパートシステムの構築,テニスラケットの使いやすさに関する熟練度別評価
3.部会運営方針
これらの研究内容からも理解できるように,本部会における検討内容は,材料科学的特性,工学的特性,人間が有する生理・心理的特性,人間を取り巻く社会科学・環境科学的特性を総合的に検討していかなくてはならない。したがって,今回創設される関連他部会との連携を密に取りながら,研究会や製品開発を主体とした運営を行い,実り多き成果を挙げてゆきたい。
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