センサフュージョン研究部会

石川正俊

東京大学工学系研究科計数工学専攻 教授

1.背景

 人間は、視覚、聴覚、触覚といった五感と呼ばれる複数の感覚情報を用いて、外界や自己の変化を知覚・認識している.例えば、手の上に置かれたコーヒーカップは、目から得られる視覚情報としての"カップ"であると同時に、手で触った触覚情報による"カップ"でもある.さらに、カップの中にあたたかいコーヒーが満たされていれば、漂う香りや温度の情報も加わってくる.

 人間は、これらの情報からまとまった一つの知覚表象としての"カップ"を認識することができ,個々の感覚情報は、この知覚表象としての"カップ"のもとに矛盾なく融合されいる.カップが少しかけていたり、コーヒーが少しうすくても、カップは"カップ"として認識することができ、カップを持つ手を動かせば、これらの感覚情報は思ったとおりに変化し、記憶の中の"カップ"とも矛盾はない.逆に、矛盾が起これば、それを異常として認識することも可能である.

 このように、記憶や運動系の情報なども含めて、多種類の感覚情報から融合された知覚は、視覚のみあるいは触覚のみの情報に比べて確実性が高く、多義的な情報を提供することができる.人間の脳には、このような多種類の感覚情報の処理機構として、神経細胞のネットワークによる階層的並列分散処理機構が存在するといわれている.

 このような処理系をセンサ情報の処理機構として工学的に実現しようとする考え方をセンサフュージョンと呼んでいる.つまり、複数のセンサの情報から,単一のセンサのみでは得られない新たな情報を抽出しようとする考え方である.近年になって、ロボット工学や自律移動車などの研究分野でその必要性が指摘され、センサ技術における新たな課題として議論されるようになってきた.

2.趣旨

 本研究部会では、このようなセンサフュージョン関連した研究分野に対して、最新の研究成果を持ち寄って今後の関連分野の発展を企図することを主たる目的とする.この目的の達成のため、具体的には、以下の2つの方向からアプローチを試みる.

 第1のアプローチとして、人間の感覚情報処理機能、特に感覚統合機能の解明とその感性工学的観点からの解析を行う.特に生理学・心理学の分野において、感覚統合あるいはバインディング問題と呼ばれる関連研究分野における研究成果を調査・整理し、感性工学的な視点でモデルの再構築を試みる.

 第2のアプローチでは、ここで得られた人間の感覚情報処理機構の感性モデルを用いて、工学的な認識システムとして、センサフュージョンシステムの構築原理を探求する.実現可能な複数・多種類のセンサ情報から、様々な感性情報を抽出する処理モデルを構築し、理論的な解析・実際のデータを用いた実験などを通して、人間の感覚に近いセンサ情報処理システムの構築を目指す.

 これらの研究を通して、個々のセンサからは得られなかった感性情報の抽出に関して、人間の感覚情報処理並びにその工学的実現の両面で研究を行う.

3.運営方針

 上述の趣旨の通り、研究部会は、複数の感覚情報の処理を対象として、異なった分野からの参加者が分野を越えて議論することを期待している.そのため、多分野の研究者が参加しやすい体制を整える予定である.特に生理学・心理学の分野の研究者とセンサ情報処理関連の工学の研究者が同じテーマ、同じ目標に関して違ったアプローチで気軽に議論できる場を提供しようと考えている.

 具体的な内容は今後詰めて行くが、当初は、

・欧米も含む研究の現状と課題

・人間の感覚情報処理モデルの構築

・工学的センサフュージョンシステムの構築

等を柱として、気軽に議論のできる形の研究会を開いて行きたい.

4.展開

 センサフュージョンは、まだまだ発展途上の分野であるが、アメリカではすでにセンサフュージョンの学会が設立され、ヨーロッパでもその動きが加速されている.本研究部会では、そのような流れに則した形で研究方向を見極めながら、新しい感覚情報処理方法の方向性を見いだして行きたいと考えている.

 このような研究の進展により、数多くのセンサを用いたシステム、例えばロボット、車、工場、物理的な情報の把握ばかりでなく、人間と同等の感性を備えたシステムとして時発限される日が来ることが期待される.


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