本多裕之
名古屋大学大学院工学研究科生物機能工学専攻 助教授
このような消費者の感じる快適感は感性と呼ばれ、多くの場合、言語情報として得られる。例えば、カーテンの柄でいえば、「もう少し春らしい色彩で・・・」とか、「もう少し高級感のある柄で・・・」といった情報である。この快適感は、人間が使う生活用品すべて、食物すべて、それから生活空間そのものに対する評価にも使われる。従って、消費者の感じる快適感を製品設計にフィードバックする仕組みが商品製造や生活空間の創造において非常に重要である。
2.趣旨
快適工学研究会では、これらの対象となる事象を工学的な言葉で客観的に語り、快適感を具現化する製品設計あるいは生活環境設計を実現することを目標とする。これら多岐にわたる事象は、ひとまとめにして取り扱うには広すぎる。一方、何を快適と感じるかという人間の生理的、心理的作用を科学的に捉える研究も盛んになりつつある。快適性に影響する因子は、光、匂い、温湿度、音、広さ、さわりごこちなど種々ある。このため、本研究会では、快適感を「人間が、その感覚器を通して得た外部情報を整理し直して表現した結果である」という視点でとらえ、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、温冷感、といった人間感覚で分け、どの感覚情報が工学的に取り扱いやすいかといった観点で整理したい。そのため、人間感覚に対応するセンサー情報(物理化学的なデータ)があるか、そのセンサー情報を快適感に翻訳できるインターフェイスがあるか、といった切り口で調査研究を進めたい。両者の間の関連性の解明(モデリング)ができれば、快適感が具体的な物理化学的データに翻訳できたこととなり、快適感を具現化する商品のデザインが初めて可能になる。この考え方の模式図を図1に示す。まず快適感のモデリング(人間感覚モデリング)を行い、ついで、製造プロセスの制御(プロセスモデリング)につなげる。
上記の切り口で整理した場合、例えば視覚情報についていえばカメラやテレビモニターの発達は著しく、瞬時に遠隔地の情報を再現し、知ることができる。優れたセンシング技術といえよう。しかし、視覚情報を人間感覚につなげ、快適感に翻訳する段階はかなり複雑である。モノトーンな無意味な色彩であれば、感じ方は整理できようが、意味を持ったデザイン(例えば立木の絵や猫の絵など)であれば通常、個人のライフスタイルやライフステージ、また過去の記憶に左右され、より高次の情報処理を経るため、人間の感じ方を推定することは困難であろう。一方、味覚・嗅覚、触覚(肌触り、テクスチャー)、温冷感などのより直接的な快適感についてはセンサー情報は視覚情報のそれには及ばないかもしれないが、高次の脳内情報処理が行われていないと考えられるため、より簡便であろう。例えば食品の味と香りについては、味覚・嗅覚情報をベースに、食品ごとに多数の官能評価項目がとられている。例えばコーヒーでは全体的な風味、酸味、苦味、渋味など11種類の官能評価値がある。食品自体の成分分析値も十分とられており、両者の間のモデリングが進んでいる。
また、もう一つ重要な視点は、データの再現性と個人間の差である。消費者の快適感は商品(あるいは事象)と対峙したときの精神状態や、周辺の環境状況によっても影響されやすい。いかにして再現性の良い、信頼性の高い快適感評価データを得るかが重要な点である。その事象に対して研ぎ済まされた感覚を持つエキスパート(デザイナーや鑑定士)がいる場合は、快適感と事象の間のモデリングを議論しやすい。しかし、そのモデリング結果と、一般消費者の感覚とのギャップに注意する必要がある。
3.運営方針
本研究会はこのような現状の中で、快適さを感じるメカニズムや快適の評価を定量化するアプローチを中心とする快適な「ものづくり」の技術確立を目的としている。このため、人間の感性特に快適感を、工学的な言葉に翻訳する方法について集中的に検討したい。人間の感性情報は、言語情報として、官能評価値という形式でとられる場合が多い。このため、採取されている官能評価値と物理化学的なデータのモデリングが可能であるか、不可能であるなら、どのような物理化学的データを採取する必要があるか、といった観点から調査研究する。
快適性は対象ごとに様々な計測技術を組み合わせて取り扱われている。人間感覚を模倣したセンサーがない場合は、脳内情報活動を直接計測するという方法も検討されてる。脳波、神経活動電位、MRI、脳磁図などがそれである。この新しい取り組みについても調査したい。
具体的に、部会活動としては、講師の方をお呼びして、年4回程度の話題提供あるいは事例発表を中心とした研究会を企画し、その中で快適性の科学と工学について議論を深める。また、部会構成員間の情報交換も活発に行い、共同研究できる体制にする。
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