感性インタラクション研究部会

原田 昭

公立大学法人 札幌市立大学・学長

感性インタラクション研究部会を開設するにあたって

(1)情報科学が進展するにつれて、よってたつ生活に求められる価値観変化が見られ、人間と機器との関わりをデザインする組織体制やマネージメントが変動し始めている。デザインにおける役割も可視的な造形美のみならず、不可視的なインタラクション領域のデザインに注目画集中するようになった。デザインに求める内容の多様化は必然的にデザインにたいする存在の問い直しであり、今ここであらためてデザインの科学とは何か、デザインの方法とは何かについて21世紀に向けてのビジョンが求められている。従来までのインタフェース研究は、人間と機器との相互関係を論理的側面から構造化し、その応答シナリオの設計を行ってきた。しかし、それでも技術の進歩に相反して機器の使いやすさの向上は技術の進展速度に追いつくことはできていない。それはなぜだろうか。

(2)人間は日常的に、「それ取って」とか「あれにしようか」「どうしたの?」という単純な会話で、コミュニケーションを行っている。このような会話では、論理的というよりは、感性的側面が大きく働いている。にもかかわらず、これまでの技術や自然科学の体系は、「それがどうであるのか」という問いによって成立していた。しかし、デザインや、人工物の体系は「それをどうすべきなのか」という問いかけによって成立しているといえる。だからこそ自然科学や、工学的発想を超えて、人間の感性の研究が必要とされるのである。工業製品や機械の設計においては、ある目的を達成するための機能的性能の複合化がその内容となるが、インタラクションの設計は、機器とそれを取り扱う人間との双方向のやり取りを実現する仕組みの設計である。人間のコミュニケーションは論理的規則と感性的なし組にとによって成立している。したがってインタラクションの設計を行うには、感性研究が必要となるわけである。この側面こそ「感性的インタフェース」という側面である。

(3)社会・産業環境から求められているデザインのニーズは、従来から言われているような、芸術と技術の中間領域としてのデザインの位置付けではなく、学際領域としてのあらゆる科学領域にわたる融合領域として位置付けられるべきであろう。長年にわたるデザイナーのみを集結した巨大なデザイン組織の構築は、デザイン領域を芸術の分野に偏って閉じた専門領域とする社会認識を一般の人々植え付けてきた。その結果、デザインはこれだけの産業的貢献をしながら、人々にはなんらその本質が知られていないのである。しかるに、科学領域では徐々にデザインという用語がデザイン分野が考えているような狭領域の意味でなく、心理学分野で、「認知的デザイン」、教育の分野で「教育のデザイン」、ロボット工学の分野で「センシングのデザイン」、分野で「エージェントのデザイン」のように自由な解釈で使用される機会が増えている。21世紀においては、工業製品と人間との関わりを研究するための広領域の学際的な研究組織がインタラクションの研究・設計に携わるに違いない。それというのも、人間のすべての感覚器官が関わる感性的な領域が人間にとっての根源となっているからである。

(4)世界的な構造的再編時代にあって、少なからず、デザイン領域も再編時代の幕開けを迎えようとしている。それにはまず、デザインを感性科学としての視点でとらえなおし、その基盤的な構成を検討する必要がある。21世紀に向けてデザインの世界はいま感性科学領域という視点でその枠組みを再編しなければならない。その視点からあらたなデザイン技術を構築していかなければならないのである。これからのデザインを考えるにあたって従来のデザイン専門領域ばかりではなく、関連する隣接領域との「融合領域としての独自性」を見出していかなければならないのである。

(5)21世紀の人類の目標は「感動」や「安心感」を生み出すことに向けられる。経済の充足は必ずしもこの二つを生み出すことはできなかった。そして単なる物質的な充足もこれをなし得なかった。21世紀のデザインはまさにこキーワードをどのように充足させるかにかかっている。そのためには、デザインを独立した領域として存在させるのではなく、「あらゆる科学と融合した領域として」新たな世界として生み出すことが必要となってくるのである。この融合科学としてのデザイン領域は、その方法として、融合工学としての新たな技術を生み出すに違いない。感性工学はまさにこの融合技術を創出する研究領域になるに違いないのである。

(6)インタラクション研究は、いまや世界的な研究課題となっている。しかし、感性的なインタラクション研究はこれからの領域である。そしてこれからは、国際共同プロジェクト体制の強化なくしては高度な研究成果を生み出すことはあり得ない。従来の海外に対するデザインの視点は、英国、ドイツ、アメリカ、イタリアのようにデザインの技術輸入国先として我が国に紹介されることが多かった。しかしこれからは、それらの国々とのデザイン文化の融合領域としての国際的共同研究を推進する視点が必要である。近年日本デザイン学会が推進している国際デザイン会議の開催はこの点でも特筆される運動であり、日本感性工学会としても世界スケールでデザイン科学の学術交流を拡大していくべきである。

(7)感性インタラクション研究部会の研究領域

-1.感性認知科学の基礎研究:

理解や推論などの認知モデルが進む中で、感動や、感情、創造や創造力などの感性認知モデルへの関心が高まっている。一方で、「感性」とは何かという定義問題も議論して行きたい。

-2.インタラクション・デザインプロセス:

人間と機器のインタラクション技術構築のプロセスでは、デザイン、認知科学、プログラミング、ロボティクスなど広領域の協同研究システムが不可欠であり、インタフェース技術開発体制とデザインとが連携したプロセスの構築が不可欠である。

-3.インタラクション・シナリオ:

人間と機器とのインタラクションを設計するための技術として、従来までの直列的シナリオに対して並列的シナリオ構築が注目を集めつつある。多様な人間の機器操作過程を設計するは、多様な操作過程をあらかじめ想定してシナリオ構成する必要がある。しかしながら、シナリオをユーザに選択させる局面で多様なルールが必要とされ、分厚いマニュアルを用意しなければならなかった。その結果ユーザに規則習得の学習を強いることとなり、複雑な機器操作を有するモノ離れが生じている。

これらの現状を打破するためには、ルール学習を要しないインタラクションシステムが必要である。それは感性インタラクションの構築により可能となる。

-4.ユーザビリティ評価:

最適なシナリオ設計のためにはインタラクション評価技術が重要な意味を持ってくる。「使いやすさ」「快適性」等の機器に対する評価は、言いかえれば機器のインタラクション設計に対するユーザ評価でもある。そこでこのユーザビリティ評価を行うためのシミュレータ設計が重要なツールとなる。

-5.インタラクションの構造化:

人間と機器とのインタラクションをいかなる構造として捉えるかがかぎを握っている。インタラクティビティをどのように捉えるかということがデザインの最も重要なポイントである。単純に操作時間を減らせば、ワンタッチボタンによる「つまならさ」を生み出してしまう。機器に対して操作することの喜びをどこに求めるかが設計されていなければならない。インタラクション構造をクリエイティブな構造として構築することがこれからのインタラクション構造化手法となるに違いない。

-6.インタラクション・プログラミング:

エージェント・プログラミングは人間の振る舞いと機械の応答を実現するために分離できない関係がある。ユーザの実現したい内容を機器に伝達し、機器が多様なプログラムからその要求うに見合ったリアクションを選択してリアクティブに返すというエージェントの概念が導入されている。これらのプログラムに感性情報をいかに取りこむかがこれからの課題である。

ここでは、感性インタラクション技術としてのエージェント・プログラミング技術の展開を研究する。

-7.マルチメディアと感性インタフェース:

最近の研究動向ではダイナミック・ヴィジュアライゼーションなどのマルチモーダルなインタラクション領域の研究が盛んになりつつある。感性インタラクション設計において動的な表現形式の研究をマルチメディア技術を活用して行う。

感性インタラクション研究部会の運営方針

(8)研究の進め方

この部会では、インタラクションに関することは何でも取り扱うが、特に工業製品のインタラクション・デザインの領域に感性技術をどのように導入できるかについての研究を行いたい。

-1.感性の研究はいまだにほとんどわかっていない研究領域であるが、しかしながら、感性の存在を否定する人も存在しない。このような感性の仕組みについての基礎的解明についての研究を進めたい。

-2.感性技術を導入することにより、工業製品などの操作性がどのように向上するかについての研究。

-3.筆者の主宰する「筑波大学感性評価特別プロジェクト組織」の特別研究プロジェクトとの協同による感性評価モデル構築研究を行う。

-4.産業界との協同プロジェクトによる感性インタラクション・研究プロジェクトを共同研究体制として推進する。

(9)研究部会運営について

-1.インターネットをフル活用したネットワーク研究会をWEBで常時開催する方向で検討している。これにより遠隔地会員も常時参加することができ、研究状況記録の共有が実現できる。

-2.さらに部会会員による研究発表会を開催し、フェイス・ツー・フェイスの交流会を開催する。

-3.筑波大学感性評価特別プロジェクト組織との共同研究体制を構築し、研究発表会、ワークショップでの発表参加を行う。

10)研究部会組織

現在、海外ではマサチュセッツ工科大学(米国)、デルフト工科大学(オランダ)、スツッツガルト芸術大学(ドイツ)、韓国科学技術大学(韓国)。国内では、大学、国立研究所、民間企業、民間研究所などを候補としてネットワークを組み、国際的ネットワークでインタラクション研究部会組織を構築していきたい。


問い合わせ

064-0953 北海道札幌市南区芸術の森1丁目、Tel: 011-522-7722、E-Mail: aharada@scu.ac.jp