感性認知ビジネス実践部会設立趣意書


ビジネスとは人の営みです。感性工学もまた人の営みに基づく人間科学であり、その諸研究から得られるさまざまな知見は、ビジネスに携わる人々が活用すべき有意義な情報だと考えます。しかるに実際の産業現場において、それらの貴重な知見が充分に活用されているかといえば、やや疑問のある状況です。特に中小企業、殊に零細企業においては感性工学の取り組みや学問的成果がほとんど知られていないのが現状であり、学術界と産業現場との乖離を改めて痛感する次第です。
 しかしビジネスが人の営みである以上、人間科学から得られる知見をビジネスが取り入れていくことは不可欠なことです。
学会における知見がビジネス社会で活用されていないのは、学術界での研究内容・知見を産業人の言語に変換・翻訳する機構がないことが主因だと考えられます。
私はこれまでの活動のなかで、私なりの彼ら向け翻訳作業を行なってもいますが、そうすれば彼らは的確にキャッチし、現場に取り入れ、ビジネスの成果へと結びつけます。この翻訳作業がさらに本格的になされるならば、産業界が受けるメリットは計り知れないものになるでしょう。またそれら産業界での生きた情報は、学術界にとっても価値の高いものであると考えます。
 さらにいえば、人間科学の研究から得られる知見を活用していかなければ、これからのビジネスは長く存続し得ないと、私は確信しています。
その理由は二つあります。
理由の一つは、現代日本の消費傾向における課題です。
現代日本における消費者の消費行動を分析すると、そこには二つの傾向が認められます。
 一つは衝動的・他動的消費です。流行やトレンドの影響を受け、行列を見ればつい並びたくなるという消費心理は動物的であり、反射行動的なものです。これを私は広義に「認知・行動メカニズム」ととらえていますが、これは消費行動において極めて重要な要素であり、この分野の学術研究成果をビジネスの現場で活用する重要性は論を持ちません。
 いま一つは感性消費です。すなわち「好き」「嫌い」「快」「不快」といった個々人の感性に基づく消費行動であり、これは動物的・反射的なものではなく、人間の高次情報処理能力によってなされる消費行動です。これもまた学術研究およびビジネスへの応用に取り組んでいく必要があります。日本は特に消費者の消費感性の高い国であり、感性の研究から得られる知見を活用し、認知・行動メカニズムだけではまったく解釈・対応できない消費現象を解明し、ビジネスに活かしていくことの重要性は、年々高まっていくことでしょう。
理由の二つ目は、日本の産業の行く末です。
今産業界は大量生産・大量消費のビジネスモデルからなかなか脱け出せていない現状です。特に中小・零細企業はこのビジネスモデルでは存続し難い状況であり、新たなビジネスモデルの構築と流布が緊急の課題です。またそうした反面で、経済社会全体の金融化・市場化の結果、お金がお金を生むビジネスモデルに起業家・企業家の志向もシフトしており、これが実体経済の空洞化を進めています。
大げさな言い方ですが、これは日本の経済と文化の存亡の危機ではないでしょうか。
そんななかで、ビジネスが人間性を軸にし直し、人間性豊かなものになっていくことが、後世に遺す社会のためにも必要なことと考えます。
こうしたビジネスのあり方をここでは「感性認知ビジネス」と名づけ、これを産業現場で実践する手法として「感性認知マーケティング手法」を提唱します。
このような観点から、感性認知マーケティング手法の研究および実践を手がけ、人間性豊かなビジネスを実践研究する部会として「感性認知ビジネス実践部会」を設立したいと考えます。諸先生の賛同と参集を仰ぎ、関連する各分野において広範かつ多岐にわたる研究活動を行なうと同時に、その成果をビジネスの現場に応用する変換・翻訳機構としての活動を目指すものです。
 学術研究は本来、よりよい社会を築くための思考作業だと考えます。そこで得られた知見は、たとえ仮説の段階にあるといえども産業現場にいち早く活かされることを、産業現場のわれわれは望みます。学問上の成果を産業人の言語に変換・翻訳する活動を通じ、両者の橋渡し役として社会に貢献することは本部会の重要な使命の一つです。
 各位のご賛同とご参加を切に願う次第です。

平成17年12月
小阪裕司